『走る詩人』 加澄ひろし

サブフォーを目指さない文化系ランナーの独り言

パリを走る その2

『走る詩人』加澄ひろしです。

 

昨年の秋(2019年9月)、フランスのパリに行ってきました。
4泊滞在のついでに、セーヌ川沿いをランニングしてきましたので、その時の思い出を書きます。長くなりそうなので、数回に分けることにしました。

今回は、その2です。

 

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右岸を走りながら、どこかでセーヌを左岸に渡ろうと考えていました。

ポン・デ・ザールの橋を渡ると、ヴォルテール通り沿いを走ってオルセー美術館の前に抜けることになります。河岸は狭く荒れていて、走り難そうでした。右岸にはルーブル宮(ルーブル美術館)があり、その先はチュイルリー公園です。チュイルリー公園に逸れるつもりはありませんでしたが、引き続き右岸を走ることにしました。

 

右岸も、水際は石畳が荒れていて走るにふさわしくなく、道路に上がって歩道を走ることにしました。朝のルーブル周辺は、人影も少なくひっそりとしています。河岸の道路に走る姿はなく、少し寂しい気さえしました。それでも、カルーセル橋の信号を渡り、右手にチュイルリーの木々の広がりを見つつ、左対岸にオルセーの瀟洒な建物を見ると、気分は高揚します。パリの観光地のど真ん中を、日本の日常と同じスタイルで、汗をかいて走っているのです。

 

若い頃、パリに憧れの気持ちを抱いていました。ヨーロッパに憧れ、ヨーロッパ各地を旅した中でも、パリは特別でした。何日滞在しても回り切れない美術館、知れば知るほど訪れてみたい観光スポット。その中心地が、ルーブルです。パリで観光めぐりをすることには飽きたけれど、走るためならまた来たい! そう思ったのです。

 

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この辺りでは、走るクルマの数も減り、砂地の地面に自分の足音が聞こえます。遠い視線の遥かな先に、エッフェル塔の姿が見えます。そこを目指して走る自分を励ますように、セーヌの風が吹き抜けます。

 

コンコルド広場の100メートルほど手前には、オランジェリー美術館と対岸のオルセー美術館を結ぶ歩行者専用の橋がかかっています。レオポール・セダール・サンゴール橋という橋ですが、僕はこの橋を知りませんでした。今回初めて渡ったので、最近出来た橋だと思いましたが、調べてみると1999年に完成したものでした。

 レオポール・セダール・サンゴール橋は、まるで川を渡るランナーのためにしつらえられたかのように、緩やかに傾斜した走りやすい橋です。橋の幅も広く、足の衝撃も柔らかです。この橋のたもとから、急にランナーの姿が増えたのを覚えています。

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オルセーからエッフェル塔に至る左岸の水際は、広々としたランニングコースになっており、少しにぎやかな雰囲気です。ところどころに露店が並び、公衆トイレもありました。前にも後ろにもランナーが走り、老若男女のランナーとすれ違いながら、自分のペースが上がってくるのを感じました。

コンコルドの橋やアンバリッドの橋、その先いくつかの橋を潜りましたが、あの交通量の激しい広い通りをどこで潜り抜けたのか、まったく気がつきません。ランニングロードは、都会の混雑とは完全に切り離され、アルマ橋までの区間は快適に走ることができました。

 

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アルマ橋からエッフェル塔のたもと、イエナ橋までの区間は、公園の園地を走ります。未舗装の砂地ですので、シューズが少し滑ります。足の感触は悪くありませんが、走りやすくはありません。足もとに立つ砂ぼこりも気になります。

イエナ橋に至ると、エッフェル塔は、天を仰いで見上げるまでに近づきます。そして、周囲を歩く観光客の数が急に増えます。ここをセーヌの折り返し点と考えていた僕は、イエナ橋を渡って、シャイヨー宮に向かいます。

 

ポン・デ・ザールからイエナ橋まで、約4キロ。この区間には、変化がありました。オルセーに至るまでの静かな区間、そして、オルセーから先のにぎやかな区間です。静かな区間では自分をみつめ、にぎやかな区間では走りを楽しむことになりました。色とりどりのランニングウェアに身を包み、それぞれのペースを刻むパリのランナーたちに交じって、僕は、心の底からランニングを楽しむことができました。

 

その3に続く

 

筆者へのメール:kasumi@tokyo.ffn.ne.jp