『走る詩人』加澄ひろしです。
詩誌『詩と思想』6月号の投稿欄で、佳作に選んでいただきました。
これを励みに、一層の精進に務めてまいります。
『駅、影絵』
慌ただしいプラットホームを覆う
コンコースのばかでかい吹き抜けに
ぽかりぽかりと浮いている
いくつもの光の放射を浴びて
無数の影絵が
ひしめき合って歩いていく
無遠慮なスピーカーが
頭ごなしに声を降らせる
乱反射する無表情な響きに
誰も耳を貸そうとはしない
出発を告げるメロディ
接近を知らせるチャイム
迫る気配にせかされて
雑踏の息づかいが先を急ぐ
無言の足踏みが列をなす
交錯する色あせた迷路の
透きとおる鏡の虚像のむこうに
座り込んで、とどまろうとする
不協和音のざわめき
立ちどまらない空間の
波間を押しのけてゆく
自分だけをみつめる旅人たち
ばかでかい幻のような真空に
息苦しさがよどんでいる
ぽかりぽかりと浮かんでいる
影絵のゆくえを知ることもなく
そっと、のみ込まれた
©2022 Hiroshi Kasumi
ロシアの侵略に断固として抗議し、即時の攻撃停止と完全撤退を求めます。