『走る詩人』 加澄ひろし

サブフォーを目指さない文化系ランナーの独り言

【詩】惜別

『走る詩人』加澄ひろしです。

この作品は、詩誌『詩と思想』8月号で佳作に選んでいただきました。

選者の清岳こう先生から、有難い選評をいただきました。大変光栄なことです。

これからも、よりよい詩が書けるよう一層精進してまいります。

 

「惜別」

 

すっくと立っていた
樹は、百年生きていた
深々と、地面をつかみ
広々と、空をおよいで
季節と命を眺めていた

鳥があそんでいた
震える光のなか、風にゆれて
浴びるしぶきに歌っていた
人があるいていた
揺する陰のした、雲をみあげて
浴びる温もりに休んでいた

樹は、百年立っていた
広々と、地面をとらえ
青々と、空にそよいで
晴れの日も嵐の日々も
身じろぎせず眺めていた

忽然と、消えてしまった
昨日までの、確かな眺め
何もなく、失われた
百年は、流れを断たれた
鳥はとまり木を見うしなった
人はやすらぎを奪われた
風が途方にくれている
足もとだけ
大きな切り株となって
口をあけ、見あげている

その周りを、機械で掘って
まだ息のある生首を
悔いもなく、引き抜いて
どこかへ、運んでしまった
今日、百年の記憶は
何もなかったかのように
無造作に、葬られた

 

©2022 Hiroshi Kasumi

 

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