『走る詩人』 加澄ひろし

サブフォーを目指さない文化系ランナーの独り言

パリを走る その1

『走る詩人』加澄ひろしです。

 

昨年の秋(2019年9月)、フランスのパリに行ってきました。
4泊滞在のついでに、セーヌ川沿いをランニングしてきましたので、その時の思い出を書きます。長くなりそうなので、数回に分けることにしました。

今回は、第1回です。

 

            f:id:kasumipjt:20201217204722j:plain

宿泊したのは、ボージュ広場にほど近いパリ3区のアパルトマン。バスティーユ広場まで徒歩2~3分の場所でした。通りに面した扉を開けたのが午前8時過ぎ。9月の朝は、空気がひんやりとして、少し肌寒かったことを覚えています。

バスティーユからサンマルタン運河沿いをセーヌ川沿いに下り、セーヌ沿いをエッフェル塔のたもとまで走り、トロカデロ公園をシャイヨー宮まで登って下り、さらにシャン・ド・マルス公園を一周してから、今度は、セーヌ川沿いを引き返すというコースを頭に描いていました。トータルで20キロくらいになるという想定です。距離が不足しそうだったら、どこかで迂回して調整しようと思っていました。

 

火曜日の朝、バスティーユ広場の周辺は仕事に向かう人々が行き交っていました。ジャケットを羽織って歩く人々の、雑踏を避けながら走ります。

広場の中央には、『7月の円柱』と呼ばれる50メートルの塔がそびえ、てっぺんには自由を象徴する天使の像が黄金に輝きます。青空に映える天使の姿を走る自分に重ね合わせ、今日の自由を謳歌する喜びを感じることができました。

 

                           f:id:kasumipjt:20201217203224j:plain

 

バスティーユからセーヌ川までの約500メートルは、サンマルタン運河沿いの並木道を走ります。夏の終わりを告げるように、静寂に包まれたひなびた道を、色づき始めたマロニエの葉を見ながら、僕は孤独に走りました。

 

セーヌ川に至ると、河岸の階段を降り、水際のルートを走ります。

都会の騒音から隔絶され、河畔に伸びる景色が落ち着いた風情を醸し出しています。この辺りでは、ランナーの姿はちらほらといった感じでした。足もとは石畳の区間アスファルト区間があります。石畳からアスファルト舗装に変わると、やはり走りやすさを感じます。石畳のデコボコが、足に負担をかけていたことに気づくのです。

 

                          f:id:kasumipjt:20201217224552j:plain

走っているのは、セーヌ川の右岸です。正面にサン・ルイ島シテ島の歴史的な景色を見ながら走ります。何と特別な体験でしょう!!時差7時間の日本から、10時間以上もの飛行機に乗り、はるばるやってきたパリの地で、川を行き来する船を見ながら、悠々とした気分でランニングしているなんて!!

 

何とも贅沢なひと時です!!

 

                     f:id:kasumipjt:20201217224715j:plain

川の対岸、シテ島にコンシェルジェリーの城壁を見ると、まもなく、ポン・デ・ザールの橋に至ります。『アート』の名を冠したこの橋は、歩行者専用の平板張りの橋です。のんびりした気分でセーヌの景色を広々と見渡せる、散歩にはもってこいの風情ある橋です。初めてパリを訪れた時からの、僕にとってはお気に入りの場所のひとつです。木の板に大きく響く自分の足音を気にしながら、力強いステップで、僕は橋を往復しました。踏みしめる足を橋が受け止め、僕の体に跳ね返ってきます。歩いて渡る時には感じることのない、独特の感覚を覚えたのでした。

                              

              f:id:kasumipjt:20201217224943j:plain


ここまで約3キロの道のりは、この日のランニングの序章に過ぎません。初めてパリを走る自分は、半ば緊張し、半ば期待に胸を躍らせていました。

まだ落ち葉の季節には早かったけれど、夏が過ぎ、確実に近づいてくる寒い冬。その寒さを予感させるような秋の風を浴びながら、僕は生身の人間の姿で走り始めました。走る自分を走るリズムでさらすことで、僕の五感は研ぎ澄まされ、新たなパリを感じたのです。見慣れているはずの景色さえ、目に新しく感じます。

 

何度か訪れたと言っても、パリは異国の地です。ランシャツ、ランパンだけで、財布も持たず、事情に疎い場所を走るのは、勇気のいることでした。走り始めは、おっかなびっくりだったと思います。でも、道行く人々は、走る僕に目もくれません。自転車も、犬の散歩をする人も、僕のことを気にかける様子もありません。

セーヌ川周辺ではと、地元のランナーにも出会います。誰も、僕のことを特別な目で見たりはしません。当たり前のように、僕は受け入れられ、パリの街に溶け込んでいたのです。僕は徐々に大胆になり、少しずつ自分らしく、リラックスして走ることができるようになりました。軽装であることも手伝って、いつの間にか、これまでになく解放された気分になっていました。伸び伸びと全身を使って、いつも通り自分らしく、走れるようになっていました。

 

そして、いつも旅先で思うことですが、

みんな、どこの地に暮らしていても、肌や目の色が違っていても、やっぱり、同じ人間何なんだなぁ!

と実感するのです。

 

パリは人種のるつぼです。アフリカからの移民も多く、東洋系の住民も少なくありません。毎日のように、町にあふれる観光客も人種を問いません。パリの町は、異国人を気にしたりはしません。走る格好をしていれば、住民も観光客も見分けがつきません。

 

その2に続く

 

筆者へのメール:kasumi@tokyo.ffn.ne.jp